ダークストアは、個人宅への物流の最終形態とも言われ、超短時間で注文した商品が届くEコマースのビジネスモデルのひとつです。
ヨーロッパを起点として、すでにシンガポールや韓国で定着したこの物流業態は、市場規模10.6兆円ともいわれる日本の通販業界にも導入されようとしています。
まるで夢のような未来の物流モデル・ダークストアについて、実際に行われている事例や、超短時間で届く仕組み、日本でも始まったダークストアの動きについて詳しく解説します。
ダークストアとは
ダークストアとは、裏に隠れている「ダーク」な店舗業態のことで消費者が訪れる実際の店舗を持たず、利用者がオンラインで注文後10分から30分程度で商品を届けることに特化したデリバリー専門のスーパーマーケットの仕組みです。
超短時間でのデリバリーを可能にしているのは、半径2キロ以内程度の狭いエリアごとに商品を貯蔵する倉庫を設け、注文が入ると同時にスタッフが荷造りを開始しデリバリースタッフへと受け渡す、効率の良い仕組みです。
既存のECサイトでは、Amazonやアスクルなどが当日あるいは1日以内の配送を強みとして利用者を獲得しているのに対して、ダークストアは圧倒的に短い時間で商品を届けることを実現しているのが強みとなります。
世界ではドローンや自動運転車両を用いて、人員を省力化した形でダークストアを展開するためのインフラ整備も進められており、まさに未来の物流が実現するかもしれません。
ダークストアのメリットと具体的な事例
注文から30分程度で商品が届くダークストアのメリットは、さまざまなものがあります。
例えば料理を始めてから醤油が足りずに慌てる、トイレに入ってペーパーが切れていて青ざめる、などの「今すぐアレが欲しい!」という願望も、ダークストアであれば家から一歩も出ること無く僅か数分で商品が手元に届きます。
このため、イザというときの家庭の在庫切れに対応してくれるというメリットに加え、ご家庭に大量のストックを保管しておかなくても良いことで家計の状況の改善にも寄与します。
また、緊急性の高い商品購入でなくても、即座にデリバリーが行われることから商品受け取りの時間帯指定などの手間が省け、不在表による再配達が発生する機会が減少します。
以下では、既に始まっているダークストアの事例なども参考に、ダークストアのメリットについてさらに詳しく解説します。
【10分で配達!OniGO】ダークストアの提供する新たな価値とは
日本企業では初となるダークストアの本格的な展開を行っているのがネットスーパーのOniGoで、リアル店舗を持たずに「注文から10分以内にデリバリー」を実現しています。
OniGoの利用者は専用アプリを用いて、生鮮食品を含む1000アイテム以上の商品の中から欲しい商品注文すると、10分以内に自宅で商品を手にすることができます。サービスは年中無休で、1回あたりの宅配料金は300円です。
西友やイオンなどの既存の店舗型スーパーでもオンライン注文による配達サービスを行っていますが、OniGoでは半径1キロから2キロメートルのみを配達エリアとすることで短時間でのデリバリーを可能にしています。
既存店舗を起点として配送を行う店舗型スーパーでは、広い商圏を対象として来客による販売を行うことが可能であるものの、配達エリアが広くなってしまうため商品到着までに2時間以上を要します。
ダークストアであるOniGoは、来店による売り上げを一切見込めないものの、店舗を設けるための出店コストがかからず、また接客や陳列にかかる人件費も発生しません。
また、個別宅配のラストワンマイル物流では、不在による再配達が配送コストを高騰させる大きな要因となっていますが、10分以内に配達をすることで再配達の可能性はほぼゼロとなります。
OniGoでは現在、東京都内の一部の地域のみで営業を行っていますが、今後は順次エリアを拡大していく方針です。
【空き資源問題の解決】廃業店舗の物流拠点としてしての可能性
ネットショッピング需要が急増する反面、採算の取れない小売店や実店舗が廃業に追い込まれ、ショッピングモールや商店街など空き店舗の増加が問題となっています。
現在のところ、日本の地方におけるダークストアの展開の実例はありませんが、日本全国で7万8404店舗と推計されている空き店舗がダークストアの配達拠点として活用されることが予想されます。
既にEC業界では、Amazonのフルフィルメント・センターのような大規模倉庫から商品が発送される仕組みがあり、極めて狭いエリアを対象とするダークストアでは数多くの物流拠点が必要となります。
実際に店内での買い物は出来ないものの地域密着型の運営が行われることで、ダークストアが地域に根付いたサービスとして、コンビニと対抗できる存在になる可能性があるのかもしれません。
ダークストアのECビジネスにおけるデメリット
ダークストアには、超短時間で商品が届くというメリットがある一方で、数多くの拠点を展開しなければならないという特徴から、いくつかのデメリットや弱点が存在しています。
取扱商品点数の限界
まず、ダークストアでは1か所の拠点ごとに大きなスペースを確保することが難しいため、取り扱い可能な商品点数には限界があります。
このため、回転率の低い商品は取り扱いを辞めざるを得ないため、ECサイトが持つロングテールの利点を活かすことができません。
デリバリー人員の不足
ダークストアの超短時間配送を実現するためには、商圏とするエリアごとの注文件数に応じたデリバリー人員の確保が必要となりますが、日本の人材不足は深刻で、十分な人員を確保できない可能性があります。
ただし、ダークストアが極めて狭いエリアを対象としていることにより、配達に使用する乗り物が自動車やバイクに限定されず、自転車でも可能です。
このため、運転免許を持っていないなど、これまでデリバリー人材としては対象とならなかった人々を積極的に採用することで、人材不足を補うことができる可能性があります。
日本国内でダークストアを運営する代表的な企業
ここではダークストアを運営する代表的な企業をご紹介します。
OniGO(オニゴー)
2021年8月に東京都目黒区でサービスを開始した日本のベンチャー企業。配送エリアを限定して、ピッキング作業を効率化するなどの施策によって「10分以内配達」で独自のサービスを展開しています。
foodpanda(フードパンダ)
2020年9月に横浜市や神戸市でサービスを開始。創業は2012年でアジアを中心に世界51の国・地域でデリバリーを展開しているラストワンマイル配送で世界をリードする企業です。
Wolt Market
2021年12月から北海道札幌市で、Wolt Market Japanが仕入れる食料品・日用品を販売。配送時間は約30分程度としています。
ダークストアと株式会社京谷商会
株式会社京谷商会では現在、高齢者向けの配食事業として1日2回(昼夕)の戸別配送や、出前館のデリバリーパートナーとしての配送などの事業を行っています。
現在のところ食料品の配達のみに限定しているラストワンマイルの戸別配送事業ですが、将来的には日用品や生鮮食品の取り扱いを含めダークストア事業への参入の可能性もあります。
大阪府太子町は人口1万4000人程度で、町全体が正方形に近いことからダークストア展開には極めて向いており、配達拠点の設置場所によっては1か所のみで町全体を配達エリアとすることも可能です。