コメや野菜の傾向を解説

農業総産出額は、日本の農業の現状を把握する上で役立つ指標のひとつで、農林水産省が需要に合わせた農業生産のためのKPIとして使用することが多い数字です。

どうして稲作の減反政策が行われているのか、加工食品に原料原産地表示が義務付けられた効果はあるのかなどについては、農業総産出額を見ることによって理解が深まります。

日本の農業政策について気になっている方や、これから農業を始めたいと考えている方のために、農業総産出額という指標の意味や特徴について解説します。

農業総産出額とは

農業総産出額とは、農業生産者がコメや野菜、果物、畜産などの農業生産によって得られた農畜産物と、これら農畜産物を原料として作られた加工農産物販売した売り上げの合計金額です。

販売額の合計であることから、農畜産物の販売数量が減少しても単価が上昇すれば農業総産出額は上昇するケースがある一方、農畜産物の販売数量が増加した場合であっても単価が下がることによって農業総産出額は低下することもあります。

また、日本全体の農畜産物の販売であることから、台風や地震などによって特定の産地での生産が壊滅的な状況になった場合でも、他の産地や生産者からの供給によって販売数量が賄われたときには、農業総産出額は一定の水準を維持します。

つまり、農業総産出額は、日本で生産されている農畜産物の需給バランスが正常に保たれているかどうかを判断する指標として、日本全体の農業を分析することに役立ちます。

農業総産出額は下落傾向、農産物の生産量が増加

農業総産出額は最新データである令和元年(2019年)で、8兆8938億円でした。

過去30年の数字を見ると、高度経済成長が最高潮を迎えたバブル期の1990年に、農業総産出額は11兆5000億円に達していましたが、その後は下落へと向かい、2010年には8兆1000億円まで低下しました。

2011年以降は景気回復と共に農業総産出額も上昇に転じ、2017年は9兆3000億円まで回復していますが、2018年は前年割れの9兆1000億円、2019年も下落傾向は止まらずに1.8%の減少となり、8兆8938億円という数字が発表されています。

農林水産省では、2年連続で農業総産出額が下落した要因として、野菜や鶏卵の生産量が増加したことによる値崩れを挙げています。

農業総産出額は表面的な数字ではなく中身が重要

農業総産出額に占める部門別の金額は、1位が野菜の2兆1515憶円、2位が米の1兆7426憶円、3位が果実の8399憶円、4位は肉用牛の7880憶円、5位は生乳で7628憶円となっています。

農業総産出額

上位の2部門である野菜やコメの産出額の占める割合が非常に大きいことから、農業総産出額は野菜とコメの生産や販売の動向による影響を強く受けます。

野菜の農業総産出額の傾向

野菜の農業総産出額については、生産量の増加が必ずしも数字を増加させる要因になっておらず、天候不順や自然災害、害虫などによって生産量が減った年の方が農業総産出額が大きくなる傾向にあります。

このため、野菜の農業総産出額が過去10年で最も良い数字(2兆5567億円)だった2016年は、野菜の作柄が不調であったことが数字を高める要因だったと農林水産省は資料で説明しています。

一方、2017年からの3年間は野菜部門の産出額が低下していますが、この要因は野菜の作柄が良好でした。

コメの農業総産出額の傾向

日本のコメの生産については、少子高齢化によって食べ盛りの若者の人口減少が進んでいることから需要が低下している状況を受け、減反政策が推進されています。

コメの販売量が減少することによって単価は上昇しており、コメの農業総生産額も上昇傾向を示しています。

日本各地では田んぼとして利用されてきた農地を、野菜の生産などに転換する取り組みが行われていますので、今後もコメの生産量は少しずつ減少していくことは確実です。

農業総産出額と株式会社京谷商会の取り組み

株式会社京谷商会では、耕作放棄地を再活用しながら有機栽培による農業生産に取り組む方針で、2020年11月現在では1.2ヘクタールの農地を耕作しています。

生産する農産物は主に野菜で、市場データの分析に基づいた農作物の選定と生産、また最新技術の導入による生産にかかるコストの抑制などの取り組みを段階的に取り入れる方針です。

農業総産出額を上昇させるための施策として、これまで田んぼとして利用されていた農地についても、ほぼ全てを野菜生産のための圃場へと転換しています。

田んぼから畑への転換では、排水性にかかる問題が数多く発生し、さらにリン過剰などの傾向が見られることから、地域の循環型農業として十分な有機物を確保しながら土壌改良を進めます。

農業総産出額については、中長期の野菜生産の方向性を決定する指標として参考にしつつも、あくまで日本の農家全体の動向を確認する程度に留めています。