F1種とは?

F1種で育てられた野菜は危険であるとか、F1種が日本の農業をダメにしているとか、決して良い文脈で語られることのないF1種ですが、その正体とはいったいどのようなものなのでしょうか?

食の安全性について興味のある方にとっては、日頃から口に入れている野菜がどのような種(タネ)から育てられたのかについて気になるかもしれません。

また、これから農業をはじめようと考えている方にとっては、自分がどのような野菜を育てたいのかという理念や指針としてF1種のメリットやデメリットを知っておくべきかもしれません。

F1種とはどのようなタネで、どのような経緯で生まれ、どのような特徴やメリット、デメリットがあるのかについて詳しく解説します。

F1種とは

F1種とは、メンデルの法則の「優劣の法則」を利用することによって品種改良を行った雑種第一代のタネのことで、大きさや形状が均一な野菜の生産を可能にすると共に、雑種強勢の効果によって病害虫への耐性などの強さを兼ね備えています。

ただし、F1種から採取されたF2種(雑種第二代)では、メンデルの第二法則「分離の法則」によって3:1の割合で大きさや形状の異なる作物となってしまいますので、採種による翌年以降の栽培には不向きです。

やや難解な用語が数多く登場していますので、それぞれの用語について解説を加えます。

メンデルの第1法則「優劣の法則」

特徴の異なる2つの遺伝子を交配すると、必ず優性となる一方の遺伝子の特徴のみが現れるという現象のことをメンデルの「優劣の法則」と呼びます。

例えば、優性が赤色、劣勢が黄色という植物の場合、赤と黄色の2つの品種を交配させると、次の世代では必ず赤色の特徴を示す植物が育ちます。

メンデルの第1法則

もちろん野菜の特徴は色だけではありませんので、さまざまな遺伝子的な特徴について、2つの品種から優性と判断される特徴のみが次世代で出現することになります。

なお、遺伝子の雄性と劣性は、あくまでも次世代で出現する方を優性と呼んでいるだけですので、植物として優れているかどうかではありませんのでご注意ください。

メンデルの第2法則「分離の法則」

第1法則で優性の特徴のみが出現した種子同士を交配させた場合、次の世代では3:1の割合で劣性の特徴を持つ植物が出現することを、メンデルの「分離の法則」と言います。

メンデルの第2法則

最初の世代では優性の特徴のみが見られたものの、劣性の遺伝子情報も種子には継承されていることから、同じ種子によって交配させた時には25%(4分の1)の確率で劣性の特徴が出ます。

遺伝子の優劣の特徴は、葉や果実の色や形状、茎や根の太さや長さなどさまざまですので、第2世代ではそれぞれの特徴がランダムに出現することから、無数に特徴の異なる野菜が育つこととなります。

雑種強勢

植物や動物の遺伝子は近いものを交配し続けると弱くなっていくという特徴がある一方、特徴の異なる遺伝子同士を組み合わせることによって強くなるという特徴があり、これを雑種強勢と呼びます。

雑種強勢

F1種では、全く特徴の異なる遺伝子を持つ種子から育った植物を、人工的に交配させるために雑種強勢の効果が得られやすく、強くて育てやすい農業生産に向いている種子という特徴があります。

雑種強勢の効果についても、同じ種子から育てた野菜のみを交配させ続けることで効果が弱まりますので、F1種の育てやすさは次世代には継承されません。

F1種の特徴(メリット・デメリット)

F1種は、決して化学や薬剤の力によって人工的に製造された種子ではなく、種苗会社などの長年の努力によって農業生産に向いている遺伝子的な特徴のみを備えた種子です。

遺伝子組み換えによってDNAを操作された種子とは全く別物ですので、注意が必要です。

F1種のメリットとデメリットについて、主に農業生産者の立場で解説します。

F1種のメリット

F1種の最大のメリットは、均一な特徴を持った作物を大量に生産することができることです。また、雑種強勢の効果によって強くてたくましく育てやすいというメリットもあります。

収穫する野菜などの作物の特徴が均一であることによって、収穫時期が揃うことで作業効率を高めることが可能で、さらに均一性を求める市場やスーパーへの出荷が可能になります。

このため、スーパーなどに並んでいる大半の野菜は、F1種から生産されたものです。

F1種のデメリット

F1種のデメリットは、育てた作物からの自家採種ができず、毎年新しくF1種のタネを購入し続けなければならないことです。

これは既に解説したメンデルの第2法則「分離の法則」によるもので、決して意図的に自家採種が難しくなるように種苗会社などが操作しているわけではありません。

ただし、F1種の親となる品種を育成する過程では、他の遺伝子の特徴を持つ品種との交配が行われないように雄性不稔の性質を持つ種子を使用しているケースがあります。

F1種と食の危険

種苗業者による長年の苦労によって生み出された品種改良の結果であるF1種に対して、人工的な遺伝子の交配が行われているとして食の安全が脅かされていると感じる方がいます。

しかし、私たちの食卓に並んでいる多くの野菜は、元来は雑草として山や野原などに自生していたものを、人間が育てやすく、また食べて美味しい野菜へと品種改良したものです。

F1種のなかには、特定の病気への耐性の特徴が強く出ている品種も数多くあり、農薬の使用量を軽減することに成功している事例も珍しくありません。

このため、F1種だから危険であるというような論調や考え方については、不安を煽るためだけの主張である可能性も高いですので、内容について疑ってみることも大切かもしれません。

株式会社京谷商会は「固定種」のみを使用

株式会社京谷商会では、有機栽培との相性の良さから判断して、F1種ではなく固定種のみを使用して農業生産を行っています。一部、どうしても固定種のタネが手に入らない作物については、F1種による生産であることを明記します。

有機栽培は、ほとんどの農薬や化学肥料を用いることができないことから、種子そのものの特徴や強さだけでなく、生産する農場(圃場)と種子の相性が非常に大切な要素となります。

このため、自家採種ができないF1種では思い通りの農業生産をすることができません。

株式会社京谷商会は種苗業の登録を済ませており、固定種の種子や、固定種で育成した苗の販売も行っておりますので、育てたい野菜などがありましたらご相談ください。